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今月のコラム 文⁄塾長 大山重憲
2014年8月
Restart
終わってみれば日本代表はグループ最下位。日本代表らしさを出せずに決勝トーナメントに進めずサッカーW杯ブラジル大会は閉幕した。日本のストライカー岡崎慎司はコロンビア戦で1点を挙げ、日本代表最多得点選手としての面目を辛くも躍如した。
昨年夏、ブラジルで行われたコンフェデレーションズカップは、各大陸王者が競う世界大会。日本代表はグループリーグ三連敗で敗退したが、岡崎はこの舞台で、ある確信を得た。
「初戦は周りの選手がプレーしやすいようにという気持ちが先に出てしまい、結局ゴールが決められなかった。『ゴールだけを考えよう』と挑んだ残り二試合で得点することが出来た。大会に出場している強豪国のフォワードを見ても、エゴイストにならなくちゃいけないんだと実感しました。ストライカーにはボールタッチ数は関係ないんです。ほとんどボールに触れずチャンスがなくても、最後のワンタッチかツータッチでゴールを決めることが相手への脅威になる。そしてそのゴールが自分の評価、価値を上げる。ドイツに来て改めて強く感じたことの一つです。」
日本とドイツとの違いは、子供の教育現場でも感じるという。
「ドイツの幼稚園では、おもちゃで遊びたいなら、そのおもちゃを自分で手に入れるところから始まるんです。当然取り合いになりますが、ほとんど注意されることがない。スケジュールもあまり決まってなく、子供たちは自分たちで時間の過ごし方を考える。与えられるのではなく、自立を促そうという方針なんだと思います。だから、ヨーロッパにはハングリー精神むき出しで、貪欲に戦う選手が育つんだと思います。
日本は、おもちゃは与えてもらえるし、順番を守って、という教育。緻密に決められたスケジュールのもとで、スムーズで快適で無駄のない時間を過ごせる。しかし、そういう教育では自分で決断したり考えることができなくなる可能性もあるはず。子供のころから強い者だけが勝ち抜き、弱い者は取り残されていくドイツの厳しさと、日本の優しさと、良し悪しではなく、そういう文化の違いがあるんです。」
イタリア人監督ザッケローニは、攻撃陣が活発なポジションチェンジをしながら短いパスを繋いで相手ゴールに迫ることを日本のスタイルと定めた。「監督の中には戦術がなかったりスタイルを貫けなかったりする人もいます。そうすると選手は迷ってしまう。そういう点、ザッケローニ監督はブレがない。僕にとってはプレーのしやすい指揮官です。」
ポジティブ思考と言われる本田や長友など、ブラジル大会の目標を「優勝」と公言した代表選手がいる中で、岡崎はその点、ネガティブだ。
「試合のことをイメージしていると、外したらどうしよう、トラップを失敗したらどうしよう、と正直ドキドキが止まらなくなります。そうやってあらゆる状況を想定し、考え抜き、無の状態で試合に挑みたいといつも思っています。何も考えず、ただガムシャラにプレーしたいから、試合前にとことん考えるんです。負けるかもしれない、という気持ちを持つことで、冷静になれる。W杯についても同じです。」
サッカー界の天才軍団、日本代表選手たちには文句はない。W杯ブラジル大会ではイライラ歯がゆい思いをさせられ、悔しい思いをさせられたが、選手が試合後に流した涙は、彼らの内面を察するには十分すぎた。台本のないドラマを観戦しながら思ったことは、世界の天才たちが集う大会でありながらも、こうも違いがあるのかという、「諦め」だった。技術・スピード・戦術、等々を磨くために日々のトレーニングに明け暮れる彼らであるが、あのグリーンのピッチを絵にできるのは、選手一人の「センス」以外の何物でもないという現実だ。岡崎慎司も言っていたように、幼少からのその国の教育文化が人を創り上げてしまうのならば、少なくとも今の時点では、世界との差を諦めざるを得ないかなと。オリンピックでもそうだが、悲しいかな、最終的には選手一人の才能やセンスという、トレーニングなどではいかんともしがたい核が、最後の最後を決定づけるのではないか、という事実である。
天才たちのドラマが、一つ、終わった。