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今月のコラム 文⁄塾長 大山重憲
2013年7月
繋がり
雨で三日延期されたソフトボールのインターハイ県予選会。先に行われた春の大会でベスト16のU女子高校はシードされて、二回戦からベスト16をかけての対戦となった。相手校はOH高校。強豪と謳われたOH高校は春の大会で惜敗し、インターハイ予選は初戦からのスタート。順調に勝ち進み、ベスト16進出に闘志を燃やしていた。
先攻で始まったU女子高校は一回の裏、相手校の打線に早くも捕まり、あっという間に3点を失った。打っても打線が繋がらず、得点できずに0点を重ねていった。一方、相手校の打線は毎回途切れることなく、レフト・センター・左中間に鋭い打球を飛ばし、長打となって毎回得点を重ねていった。誰が見ても相手校のペースである。
U女子高校は最後の最後で代打や代走を試みたが、結局、流れを変えることができず、8対0で5回コールド。両校整列して主審の試合終了宣言を告げられても、自分たちのいつものプレーができなかった、その不甲斐なさと無念さ、終始、相手のペースで飲み込まれてしまい、気付いてみたら試合は終わっていた、というような、その現実を現実として受け止めきれていない茫然とした空気が、U女子高校の選手一人ひとりを包み込んでいた。
私は、回れ右をしてベンチに向かって挨拶をする選手達の、心なしか憔悴し、気が抜けて肩を落とした後ろ姿と背番号が、彼女たちの選手生活の終焉を寂しげに告げているように見えて、「よくここまで頑張ってきたよな。」との賞賛の思いに駆られたのだった。
顧問・副顧問・コーチを囲んだ選手達は、未だ事の現実を受け止めきれていない様子だったが、指導者達のコメントに、皆、真っ直ぐに耳を傾けながら、次第次第に「現実」と「終わり」を確認していっている様だった。
そして「ありがとうございました。」との、いつも通りのしっかりした挨拶で円陣が解けると、肩を抱き合った二人、三人から嗚咽の声が聞こえ始めた。「終わり、そして、始まり」の瞬間だった。
「先生、お疲れ様でした。」私は、心底、労いの思いで挨拶をさせて頂いた。
「もう少し何とかできたんですがね…。」
「いや、いいんですよ…。皆、よく頑張りましたよ…。」
「ええ…。」
先生も私も多くを語れなかった。先生の目にも、うっすら涙が滲んでいるように見えた。
真っ赤に腫らした目と、拭いた涙でぐちゃぐちゃになった顔の選手達はベンチ裏の芝に思い思いに腰を下ろして、差入れの品々を皆で分け合って頬張っていた。それは、およそ「選手」とはほど遠い、「フツーの女子高生達」の姿であった。さっきまでしていた試合のことなど、まるでなかったかのようにキャッキャと無遠慮な奇声を上げてじゃれ合う彼女たちの、誰が指示したわけでもないのに部員全員で描いた大きな円陣が、自他共に認めるチームワークの良さが定評であることを物語っていた。
彼女たちに向けた私のカメラのファインダーに突如、一人の選手が近づいてきた。次女だ。「今まで応援ありがとうございました。」無防備な私に向かって、そう大きな声を上げ、顔をくしゃくしゃにしながら泣きじゃくった。
「どうしたの…。」
「…。」腕で涙をぎゅうぎゅう拭っている。
「頑張ったね。」精一杯の言葉だった。
皆が見ているところで恥ずかしかったが、こんなに素直に成長してくれたことにありがたさが込み上げた。父娘の繋がりをここまで熱く感じたことは、初めてのことである。
彼女たちのsoftball life が終わった。そして、次の目標に向かって、既に歩み始めた。