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今月のコラム バックナンバー 文⁄塾長 大山重憲
2011年10月
支え
「大きなことでなくていい。いつものありふれた愛でいい。」
宮城県南三陸町の、美しい海に面したレストランの入り口に貼ってある紙一枚に書かれたメッセージ。3月11日からちょうど半年たった9月11日の日曜日。私は石巻市、女川町、南三陸町、気仙沼を訪れました。
情け容赦なく無慈悲にも、一瞬にして人の命を、家を、財産を奪い去り、形あるものを無差別に破壊し放題破壊していった津波の爪痕は、6か月という時間が経過した今もなお、生々しくその凄惨さを物語っていました。
しかし、ライフラインが復旧し、避難所が閉鎖されて仮設住宅に移り住むようになり、被災した工場や店舗が一部再開するなどして、7月に訪れた時に比べると、原状回復し、前進している様子は伺うことができました。
「泣きそうになった時 必ず見るのは 壊れていない 海」とはNHKで報道された八木健一郎さんの言葉です。「陸(おか)を見ると絶望しかないけど、海を見ると希望や力をもらえるんです」「支えてもらわなければ折れてしまう」とも言っています。
「支え」、という言葉。八木さんを漁に駆り立てる原動力は、自ら自家発電的に湧いて出てくる力ではなくて、「大船渡の魚をもう一度食べたい。待ち続けます。」という全国のお客さんたちからの励ましの声だったのです。「自分を待っていてくれる人たちのために頑張ろう。」と、奮起できたのです。
私は、ハッとさせられました。人は、自分ひとりだけでは力は出ないのではないか。自分と人との関係性の中で、あるいは、神や仏などと称される存在と自分との関係性の中で、力は湧いてくるのではないか。もし、自分が全く他と関係性のない存在であったら、力は生まれないのではないか。そして、人というのは、自分がある存在に支えられていることを実感した時、初めて自分の存在価値を認識でき、支えてくれるその対象のために何かをしてあげたいと、自然に思うようになっているのではないかと思ったのです。自分は支えられているから頑張れるんだと。逆に言えば、支えられていなければ頑張れないのではないかと思うのです。
特に今回心打たれたのは、八木さんとお客さんとの間には打算や利害関係を超えた心情的関係が築かれているように思えたからです。人と人との素(す)の関係がそこにあるように思えたからです。
石巻市の日和山公園(NHKが26時間番組のキーステーションにしていました)では「頑張れと言われても、私には家も土地もなくなってしまったのです」というメッセージを見かけました。前を向くことができて一歩を踏み出している人もいる一方で、まだまだ前を向けずに、支えを必要としている人たちも沢山いるはずです。
何不自由なく過ごしている私達には本当にわからない生活が、そこにはあるのです。『大きなことでなくていい。いつものありふれた愛でいい。』と、被災された人たちが「人というものは支えがないと折れてしまうんだ」ということを、無言のうちに私たちに教えてくれているように思うのです。
また、励まされてきました。